用語

AeT 有酸素閾値

定義

AeT — 有酸素閾値 — は、脂質優位の代謝から糖質依存の代謝へと移り変わる境界です。AeT 以下では、身体はほぼ全てのエネルギーを脂質酸化から賄います。この上を超えると、乳酸が安静値から持続的に上昇しはじめ、回復コストが上がりはじめます。

生理学の文献では同じ境界がいくつもの名前で呼ばれます: VT1 (第一換気性閾値)、LT1 (第一乳酸閾値)、Easy ペース上限 (Daniels)、MAF 心拍 (Maffetone)、DFA alpha1 = 0.75 (HRV 由来)。いずれも同じ生理学的な境界を、違う角度から見たものです。

なぜランナーにとって重要か

AeT 以下で過ごす時間は、有酸素能力がもっとも効率よく発達する領域です。ミトコンドリアが増えます。毛細血管密度が上がります。同じペースで脂質を燃やす能力が伸びます。経験あるコーチが「長く、静かで、地味な」練習を重ねさせる理由は、その地味な距離こそが、のちの高強度を積み上げる土台だからです。

AeT を長く超え続けると、得られる効果より支払うコストが急に大きくなります。AeT と AnT の間 (いわゆるグレーゾーン) に居続けるランナーは「仕事をした感」は得られますが、エンジンが育たないまま疲労だけ蓄積しがちです。ポラライズドは強度を両極に寄せて、この罠を避けるための設計です。

Your Pacer は AeT を動く基準点として扱います。ベース期の処方は AeT 以下を中心に置き、同じ心拍でペースが速くなった — すなわち「楽に走れるペース」が上がった — 瞬間を、ポストワークアウトのレターで明確に返します。

測り方

いくつかの方法が互いに収束する推定値を返します:

  • 心拍ドリフトテスト (Johnston / House): 30 分間の定常努力。前半 15 分と後半 15 分の平均心拍を比較。ドリフト < 3.5% なら、そのペースは AeT 以下。詳細は HR ドリフトテスト ページを参照。
  • DFA alpha1 = 0.75: HRV 由来のリアルタイム検出。記録が綺麗なら客観的で再現性が高い。
  • ラボテスト: 血中乳酸または換気ガス分析 — もっとも精度が高い、もっとも手間がかかる。
  • 年齢式 (180 − 年齢 等): 初回推定値としてのみ有用。個人差が大きい。Your Pacer は初週だけこれを使い、実測値で上書きします。

手段を問わず、推定値は あくまで推定値 です。繰り返し測定し、ウェアラブルの週次データが積み上がるにつれて精度が上がります。

単発テストは嘘をつく、週次の収束は嘘をつかない

単発のドリフトテストは騙せます。30 分間 plateau に見えた心拍が、本物の AeT であることもあれば、LT 域の一時的な plateau (加速は 60-75 分あたりから始まる) であることもあります。主観的な入力 (RPE、呼吸リズム) なしに、心拍データだけから区別することはしばしば不可能です。

Your Pacer は AeT の推定を単発の測定値ではなく、収束する signal として扱います。同じペース帯のセッションを週単位で並べて、心拍の軌跡を見るほうが、単一セッションよりはるかに確度が高くなります。同じペースで 3 セッション以上、plateau 心拍が安定または下降しているなら、身体は回復が追いついている — その強度は AeT 以下。plateau 心拍が上昇しているなら、回復が追いついていない — その強度は AeT を超え、LT 域に入っています。

device データだけでは判別が曖昧なとき、Your Pacer は weekly letter の open_question で主観的な 1 問 — トークテスト、呼吸リズム、RPE — を添えることがあります。数週に 1 度、target した 1 問だけ、クイズではありません。心拍データだけでは閉じられなかったループを、その答えが閉じてくれます。

関連用語

参考文献

  • Johnston & House — 有酸素閾値とドリフトテストに関するマウンテン・アスリート系コーチング文献。
  • Seiler, What is Best Practice for Training Intensity and Duration Distribution in Endurance Athletes?, International Journal of Sports Physiology and Performance (2010).
  • Altini & Plews, RMSSD 解釈および DFA alpha1 に関する公開論文群。